きみが春なら

「随分遅くまで頑張ったんだな?」
隠れ家に帰った途端、同居人のダニールがからかうような視線を寄越した。シャワーを浴びた直後らしく、鏡の前で白髪混じりの頭を撫でつけている。

「柄でもない事をした」
「なんだ」
「女が誘拐されそうな現場に居合わせたんで、金を払って解放してやった。今日の稼ぎはそこでパー」

へぇえ、とダニーが大げさに仰け反った。

「君がそんな真似をするとは。人間が出来てきたんだな。詐欺師に向いてないんじゃないか」
「別に。ただの気まぐれだよ」

ソファに腰かけ、テーブルの上に置いてあったパンを適当にかじる。

「まぁ、たまには良いんじゃないか。そのまま放っておけばその女はどこか外国にでも売り飛ばされて、酷い目に遭っていただろう。神様は見ていてくれる」
「神様ねぇ……」

頬杖をつきながら窓の外に目をやる。雲間に浮かんだ半月が鈍く光っていた。