きみが春なら

「修道院を抜け出してきたのか」
君が頷く。
「悪い子だ。バチが当たるぞ」
自分のマフラーを外し、首に巻いてやった。男物のそれは当然大きく、彼女の顔の半分がほぼ隠れてしまう。

「私の心配なんかしてる場合じゃないでしょ?」 

彼女は俯いたまま俺のコートの裾を握った。

「あの婆さんは、君には運べない」
泣きそうな表情をしたハルが俺を見上げる。 

「無茶するなよ。わかるだろ?危うく一緒に死ぬところだ」
「でも。見捨てるなんて出来ない」
「……そうだな。君はそういう奴だ」

そういう君が
君の、事が

「── なぜ俺があの場にいたか聞きたいんだろ?銀行を襲撃したグループに手を貸していたんだ」

ハルは両目を大きく見開いた。

「ど……うして」
「どうしてって。仕事だからだよ。前にも話しただろ?俺は君に言えないような事ばかりやって生きてるって」

半ばやけくそになり、自嘲気味に続けた。

「この前なんか、金持ちのアメリカ女に1500ドルで買われたぞ。一晩好き放題された」
「やめて!」

普段物静かな彼女の
「そんな話……聞きたくない」
こんなに悲痛な声を聞いたのは、初めてだった。

「軽蔑した?」
俺のコートを握りしめる手をやんわり振り払い、そのまま背を向けた。

「縁が切れそうで良かったな。君の店にだっていつか忍び込んで、金を盗み出したかもしれない」
「あなたはそんな事しない……!」
「なぜ言い切れる!?」

思わず語気を強める。
何だか、もう全てに。全てに嫌気が差していた。

「俺の何を知ってる?」
「……っ」
「俺は詐欺師だぞ!君を騙すなんて……簡単なんだよ」