きみが春なら

◇ ◇ ◇ ◇

アーサーの計画を実行する日がやってきた。
犯罪を犯すにはあまりに不似合いな、晴れた平日の昼下がり。この為に集まった大勢の詐欺師やマフィア達が四方向に散り散りになって銀行まわりに潜んでいる。
俺も仲間を従え、行き交う人々を路地裏から眺めていた。
「イーヴァン。間もなくだ」
「あぁ」
ピンと張りつめた空気が辺り一帯を包む。息を殺して合図を待った。
やがて銀色の高級車が現れ、銀行前に横付けされた。正面に潜んでいたアーサーが右手を挙げる。
「……いくぞ、」

「うわっ、なんだ!?」
「誰だ!?貴様ら!」

一斉に襲いかかる大勢の男達。その場は大混乱に陥った。
車に乗っていた警備員、側近と思われる男を順番に殴り飛ばす。人数は既に調査済みだった。そしてアタッシュケースを抱えた社長自身を引きずり下ろし、ケースを奪ってアーサーに投げ渡した。

「やめろ!やめてくれ」

もみくちゃになりながら叫ぶのが聞こえるが、もう車に近付く事は不可能だろう。 

「離れろ!怪我したくなかったらな!」
たまたまその場に居合わせた一般人もそう脅され逃げ惑う。大勢の援護を受けて悠々と車に乗り込んだアーサーが、運転席から俺に目配せした。

「散れ!」

俺の指示で仲間が一斉に引く。その瞬間、アーサーはアクセルを踏み込みあっという間に姿を消した。

「イーヴァン!」

少し離れた所に馬車を待機させていたダニーが、中から手を差し伸べる。掴んで一気に飛び乗った。

「やったな!大成功だ」
「あぁ」

本当に、笑ってしまうくらいスムーズに事が運んだ。
俺たちのように馬車で逃げる者。車で逃げる者。走って逃げる者が一番多いが、計画に携わった仲間も皆それぞれの方法でその場をずらかる。
あとは一人も捕まるような事が無ければ完璧だ。

俺たちも馬車を出そうとした瞬間、外から馬のいななく声が聞こえた。仲間の一人が咄嗟に奪った馬車馬が暴れているようだ。降り落とされないよう必死でしがみついている。

「制御不能になってる。まずいぞ」
「様子を見てくる」

馬車から飛び降り、近くの建物の影に屈んだ。
通りには徐々に人が集まり出している。その先に目をやり、血の気が引いた。
ハルの店の白いワゴンが停まっていた。