きみが春なら

◇ ◇ ◇ ◇

俺の方が、生きながらにして死んでいるような数日間だった。
眠れるはずもなかったが、体を横たえる為だけに。
脳に『休んだ』と言い聞かせるためだけに家に戻る。

「……え」
扉に張り付けられている何かを目にした瞬間、荷物を放り出し駆け寄った。ばん、と両手をついて読む。

『窮地は脱した。回復に向かってる。ありがとう』

白く小さなメモに並んだ、走り書きの文字。
足の力が抜けてずるずる地面に座り込む。

── 助かった、
んだよな?


「ハル……」


全身がわなわな震える。安心したからじゃなかった。
彼女を永遠に失うかもしれなかった恐怖が、今更怒濤のように押し寄せて全然止まらなかった。


俺は。俺は。
俺はあの時、許してあげたいと思った。

彼女が命を手放そうとしている事を。
このまま泣き暮らす毎日より、死を選ぼうとしている事を。
ハルの望みを。俺だけは受け止めてあげたいと思った。

でも、今となって。それがどんなに恐ろしい事だったかわかる。

君は、選んだ。
どんなに辛くても。この世界に残る事を選んでくれた。

「強い、な……」

瞼の裏に、また笑顔が浮かぶ。


強いよ。本当に。
わかってた。

逃げだそうとしていたのは、俺の方だったんだ。



扉に背を付けたまま、何時間も立ち上がれなかった。
寒いはずなのに何も感じなかった。
涙も枯れ果てて、何を考えればいいのかもうわからなかった。
うなだれたままの顔を、朝日が照らし出した頃。


「腑抜けた顔だなぁ?らしくもない」


頭上から
するはずのない声が。
耳に馴染みすぎた声がした。

「── え?」