きみが春なら

「熱が下がってきてる。脈も安定しています。窮地は脱したとみていいでしょう」

ハルの診察を終え部屋から出てきた医者が、廊下で待機していた俺とジュリにそう告げる。
「今はまた眠っていますが、じきに意識を取り戻すはずです」
「ハル様……!」
ぺたんと尻餅をついたジュリが激しく泣き出した。

「熱冷ましの薬が飲めたのですね?それが大きい」

ジュリの背をさすりながら医者の言葉を聞いた。
「ジュリ。付いててやってくれ」
声をかけ立ち上がる。
「皆に……知らせてくる」
「はい!」

そのまま人気のない廊下に駆け込んだ。
身を隠すように柱の影にまわった瞬間、涙が溢れた。

「よか、った……」

床に座り込み嗚咽を噛み殺す。

── 良かった。良かった。
起きたら、君が冷たくなってるんじゃないかって。
そう思うと眠る事さえ怖かった。

『熱冷ましの薬が飲めたのですね?』

間違いなくイーヴァンのおかげだった。
ハルを救ったのはあいつだ。

「……」

改めて感じた。彼女にとって、イーヴァンは今も特別な存在である事。
同時に俺にとっての彼女もまた、誤魔化しようもないほど特別な存在になっている事を。

いろんな想いが胸を巡り。
涙はいつまでも止まる気配をみせなかった。