きみが春なら

「ロレンツォ様」
ノックの音がした。扉が開き、城の者が一人入ってくる。

「我が軍に、敵の奇襲がかけられた模様です。至急お戻り下さいと」
「…………ああ」
ゆらり、と立ち上がった王子が俺を見た。

「手を離せ」

気付けばハルと手を繋いだままだった。
我に返って言われた通りにすると、王子はベッドに片膝を乗せ身を屈める。

ぎ、とベッドが軋む。
王子は俺の目の前で、ハルの唇にキスをした。


永遠か、と思うほど長い長いキスだったのに目を逸らす事が出来なかった。
まるで一枚の絵を眺めているように現実離れした光景だった。

「……もう一度、俺にうつし返していい。早く目を覚ませ」

ようやく唇を離したロレンツォ王子が、反応の無い彼女に囁いた。

「マナト」
びくっと体が強張る。

「俺の女だ。── 気安く触るな」

こちらに背を向けたまま。俺にハッキリ釘を刺す。

「失礼、致しました」

そして振り返る事なく、部屋を出ていった。