きみが春なら

廊下で俯いていたマナトは、すぐに俺に気が付いた。
「ロレンツォ様!?」
「どういう事だ。医者が来てるだと?」
顔を合わせるなり詰め寄った。

「……三日前の朝。部屋に伺った時にはもう高熱で倒れていて」

三日前というと俺が発った日だ。目の下にうっすら隈を浮かべたマナトは、沈痛な表情で言葉を繋ぐ。

「最初は少し水を飲んだり出来たのですが。昨日からは……全く意識がありません」

反射的に目の前の扉を開けていた。
制止するような声が聞こえた気がしたが構わなかった。

「な……」

中に飛び込み、目の前の光景に絶句する。
ベッドに横になるハルが、城で抱えている年老いた医者にちょうど服を直されていた。窓から入る日の光に点滴の袋が透ける。

「昨日より……呼吸が弱いです。熱もまた上がってる」

医者はしわがれ声でそう言った。後ろでマナトが息を呑む気配がする。
「ただの風邪じゃないのか?」
「始まりはそうだったのでしょうが、異国の風邪はこじれると質が悪い。呼吸器不全を起こしています。早く薬を入れないと、御本人の体力に限界がきてしまう」

俺の熱は一日で下がったのに。信じ難い言葉を並べ立てられ頭が真っ白になった。
体力に限界がきたら、
どうなるというのだ。

「……おい」
ベッドの横に立ち、妻を見下ろした。
「いつまで寝ているつもりだ。さっさと起きろ」

本当に眠っているようにしか見えないが、呼吸する音はほとんど聞こえない。

「まさか。このまま死ぬなんて事は無いんだろうな」

そう問うと、医者は気まずそうな顔で目を逸らした。

「御本人の生命力を── 信じるしかありません」