きみが春なら

いやに静かだな、と。
門をくぐった瞬間、まず思った。

真っ昼間だというのに城内には人影が無い。違和感を覚えつつ廊下を進むうち、ぱたぱたと足音が近付いてきた。

「ロレンツォ様!」

鉢合わせた侍女は驚いた顔をした。ハルの付き人でよく見る女だが、名は覚えていない。

「お帰りなさいませ」
「まだ戦は終わっていない。妻の様子が気になって抜けてきただけだ」

あ、と小さく声があがる。

「顔だけ見たらすぐに戻る。ハルは治ったか?」
「そ、れが……」
侍女は急に口ごもった。
「今、ちょうど……お医者様がいらしてて」
「── 医者?」

予想外の言葉が飛び出し眉根を寄せる。

「そんなに悪いのか」
「……」
「なんだ。何があった」

突然泣き出した女は、両手で顔を覆って首を振る。

「貴様じゃ埒があかん。マナトはどこだ」

ただ事ではなさそうな様子に胸騒ぎが止まらない。メイドが声を絞り出す。

「……ハル様の、お部屋に……」