きみが春なら

ハルの部屋を出た直後、帰城したばかりのロレンツォ王子の元へ向かった。

「やはり。伝染ったか」
彼女の体調が悪い事を報告すると、王子は苦々しげに顔を歪めた。
「あの日は……熱にうなされてどうかしていた」

王子はいつもの机に座ったまま額を押さえる。
いつの事を指しているのか、すぐにピンときた。一気に蘇る書庫での記憶。意識して無表情を保つ。

「もう休んだか」
「はい。熱は少しあるようでしたが、見た限りはさほど辛くもなさそうで。ご本人も明日には下がりそうだと仰っていましたが」
「そうか。なら……このまま発とう」

またしても戦への出発を明朝に控えている彼は、顔を上げた。

「後は頼んだ。マナト」
「はい。ご武運を」

頭を下げ、部屋を出る。
退勤のため廊下を進んだ。


── 元気な彼女と話が出来たのは
この夜が最後になった。