きみが春なら

「来週の火曜日は、店を開けるのか?」
カウンター席に座る年輩の客が俺にそう尋ねてきた。最近よく見るようになった顔だ。

「火曜日?」

カクテルをかき混ぜる手を止め聞き返す。グラスの中の氷がぱき、と音をたてた。

「二時間くらいは開けると思いますよ。客入りによっては早仕舞いでしょうが」
ケビーが横からそう答えた。

「良かった。呑める店が無いとつまらんからな」
「わかります」
「この国の王族崇拝は異常だよ。奴ら、調子に乗りやがって何かにつけパレードだ」
先祖を辿れば同じ一般市民なのにな、と。男は赤い顔で毒を吐く。

「国王の誕生日を祝うパレードが火曜日にあるんだ。」
ケビーが俺に耳打ちした。あぁ、と短く頷く。

「ジジイになってまでお誕生日会とは呆れるよ。王子の結婚の時だって、あーんなに盛り上げてなぁ。小娘が一人、王族入りしただけだろうが」
「お客さん!今夜のおすすめ作りましょうか!?」

俺を奥へ押しやりケビーが強引に客に勧める。腫れ物に触るような空気がいたたまれず、奥に引っ込み洗い物を片付ける事にした。

仕事をしながら客の話を聞いていると、王族に良くない印象を抱いている一般人は意外にも多い。

『小娘が一人、王族入りしただけ』。
俺も間違いなくそっち側の人間だっただろう。
『小娘』が君じゃなければ。

「……」

マナトが言っていた。ハルは影でいつも泣いていると。
泡だらけの両手から力が抜ける。思考の沼から抜け出せなくなる。


『あなたが、どこかで生きてるって思ったら。私もちゃんと頑張れる』


……世界で一番大事な人の笑顔と引き換えに
俺は今、ここに立っている。