きみが春なら

「す、ごい。十年ぶりに見た」

彼女の思惑通り、まんまと驚いてしまう。
きちんと海苔が巻かれた三角のおにぎり。取り出したそれはまだじんわり温かい。

「こっちはね。オムライスのおにぎり」

窓枠を挟んで頭を寄せ合い、一緒に袋を覗き込む。つるんと黄色い卵がラップに包まれている。

「日本にいる時よく食べてたから。今でも作りたくなるの」
「へぇ。俺も好きだったよ」
「私も。オムライス、ってちゃんと日本語で覚えてるくらい」
ふふふ、と笑い彼女は再び手を差し出した。

「休憩室に運んでおくね」
「今食うよ。腹減った」
「いいの?」
「うん」

立ったまま壁に寄りかかりラップを剥く。
休憩室なんかに置いておいたら、他の奴に食われるのは目に見えている。ハルが作った物となれば尚更だ。
一口頬張った瞬間、そのシンプルな味に感動した。懐かしさが胸で弾ける。

「美味すぎる」
「ほんとう?」

母親のはどんな味だったっけ、と。夢中で口を動かしながら海の向こうに思いを馳せる。

「米なんて売ってるんだな。こっちにも」
「そう。南通りのマーケットに。ジュリにおつかいお願いしちゃったの」

隣で夜空を見上げる横顔。
彼女にしか貰えない気持ちが、確かに俺の中にある。