きみが春なら

走って後を追うも、なかなか追いつけない。
だが行き先には見当が付いている。この方向にあるのは一つだけだ。

渡り廊を抜けた先、書庫へと続く別棟の通路は月明かりのみに照らされている。案の定書庫の扉が閉まったのを確認した後、乱れた息を整えるため壁に手をついた。
足が速いな、と思いながらスロープを上る。

「こら。」

扉を開けると同時に電灯のスイッチを押した。
本棚の間に立っていたハルがびくん!と振り返る。普段より更に目が丸い。

「何してるんだ、こんな」
「ひ……っく、」
「時間、に……?」

突然ハルの瞳から大粒の涙が次々零れたのを見て、体が固まった。
いつものネグリジェにストールのみ羽織った彼女は、しゃくりあげながら泣いている。

「ど……した?」

呆然と声をかけると、ハルは俯いて首を振る。
髪の隙間から覗いた首筋には、
── 紅い痕が幾つも散っていた。