きみが春なら

開かれた扉から、キッチンに立つハルが見えた。
「お。着替えたな」
「うん」
気付いた彼女が顔を上げる。テーブルの上には残ったアップルパイが三切れ並んでいた。

「明日、ロレンツォ様の朝食にお出ししようかな。朝から重たいかしら」
「元々あまり食わない人だからな」
それでも、ハルが作るようになってから王子は毎朝必ず朝食を摂るようになった。家臣としては驚くべき事だ。

「……」

ハルは無表情でアップルパイを見つめている。

「── 届けたいところでもあるのか?」

答えを見ながら解く問題みたいな質問だった。

「もしそうなら帰りに寄るけど」
「ううん。特に……」
感情を感じない、ぼうっとした口調だ。

「そうか?じゃあ……また後で」
「うん」

こちらに手を振りつつも視線はアップルパイに固定されたままだ。


── まただ、と思う。
言いたい事、飲み込んでる。