きみが春なら

「ごめんなさいね。ジュリ」
「いえ!とんでもないです」

いつも身の回りのお世話をしてくれるジュリが着替えを手伝ってくれた。
大きな瞳と笑った時に頬に浮かぶえくぼが可愛らしい、年下の女の子。侍女……という言い方は好きになれないけれど。きっとそういう立場なのだろうと思う。

「ハル様。おこがましいのですが」
身支度が整った後、彼女が気恥ずかしそうに言った。
「これ。貰って頂けますか?」

掌に乗っていたのはリボン型のバレッタだった。深い赤色のフェルトで出来ていて、端に縫いつけられたパールやビジューがきらきら光っている。

「わぁ!きれい。いいの?」
「は、はい。アクセサリーを手作りするのが好きで。お似合いになりそうだなって、勝手に作ってしまいました」
「ジュリは器用だものね。ありがとう。今付けてもいい?」
ジュリは嬉しそうに頷き、ハーフアップに結った私の髪にバレッタを付けてくれた。

「お似合いです」
「ありがとう。すごく嬉しい」

鏡越しに微笑み合う。妹みたいなジュリと話していると、教会でシスターの皆と暮らしていた頃を思い出して楽しかった。
どうしても気が休まらない毎日の中、彼女はとっても貴重な存在だ。

「……わたしも、ハル様みたいに。お綺麗でお料理も上手だったら」

私の髪にブラシを通しながら、ジュリがぽつりと呟いた。
「何を言うの。とっても可愛いわ」
「いえ。そうしたらもっと積極的になれるのにって。思ってしまうんです」
その口調から浮かぶ可能性はひとつだ。

「好きな人がいるの?」
「え」

あからさまに動揺するジュリを見て吹き出した。
「教えて。どんな人?」
「え、ええと……子どもの頃から知ってる人で。少し年上の人です」
頬を真っ赤に染めて俯く彼女は本当に愛らしかった。
「言わないの?好きって」
「む、無理です!無理無理」
「そう?言えなくなってからじゃ遅いのよ」

自分で放った言葉で自分の胸が痛む。
でも、真実だ。

「── ねぇ」
鏡越しにジュリを再び見つめた。

「幸せに、なってね?」

手が届かなくなる日が、突然くる事を
私は知っていた。