きみが春なら

なかなか寝つけず、さっきからベッドの中で寝返りばかりうっている。

── 『あなたは私たちの顔に泥を塗ったのよ。』

昼間、女王様に言われた言葉の数々が棘のように胸に刺さったままだ。

『恥ずかしい。これだから町娘は』
『異人を迎え入れただなんて……ただでさえ諸外国の皆様に顔向けできないのに』
『自分の立場をよくお考えなさい。』

女王様がお怒りになるのはもっともだ、と思う一方でもう疲れた、と思ってしまう自分もいた。

これからずっと『ロレンツォ様の妃』として生きていくんだ。
いろんな人に見られながら。


「……」


ぎゅ、っと掌を握り込む。
いやだ。重荷すぎて逃げ出したい。

だって、だって今までは。
ごはんは何にしようかな、とか。
何時に帰ってくるのかな、とか。

来年も一緒に桜が見たいな、とか。
ふわふわと甘やかな毎日の中で、そんな事だけ考えていれば良かった。

「イーヴァン……」

別れたあの日以来、胸に封じ込めていた名前をつい呼んでしまう。堰を切ったように溢れる涙が頬を伝い、枕を濡らしていく。

── 会いたい。
帰り、たい。
あの家に。あなたの腕の中に。

決して叶わない願いなのに。
生きていてくれればそれでいいって。確かにそう思ったからここに来たはずなのに。

……ねぇ。どうしよう。
あなたが隣にいない人生を歩み続けなきゃいけない事が
怖いの。

『見せたい場所があるから』
『今度連れて行くよ。』

いつも優しいマナトとイーヴァンの姿が重なって、余計に胸が締め付けられる。

でも笑った顔と同時に思い出すのは、最後に見たやつれた表情だった。

「しっかり、しなくちゃ……」

私の行動は
絶対、間違ってなかった。

声が漏れないよう枕に顔を押しつけ、夜明けまで泣いた。