きみが春なら

「読めるか」
「どうかしら……あ、でも読めるところもある。懐かしい」

装丁こそ大人向きだが、童話を集めたような本だった。7歳まで日本にいたと聞いた時、偶然見つけたこの本の事が真っ先に思い浮かんだ。

「平仮名ばかりだし、いいかもな。良かったら持って行っていい。他の本もあるし」
「これにする。挿し絵が可愛いから」

隣で一緒にページをめくる。頭ひとつ分低い位置にある横顔が楽しそうで、ほっとする。

「わからない字があったら、あなたに聞いてもいい?」
「もちろん」

俺を見上げた彼女が嬉しそうに笑うと
こっちまで柔らかい気持ちになれた。

「まだ見せたい場所があるから。今度連れて行くよ」

何の気なしにそう言った途端。
瞬きした彼女の瞳から
ぽた、と綺麗に涙が落ちた。

「……ど、した」
「え?」

はっとした彼女が、慌てて目元を抑えた。
「あ。ごめんなさい」
俺に背を向け涙を拭う。

「どうしたのかな。大丈夫」

気丈に振る舞おうとしているが、ギリギリの状態なのは手に取るようにわかる。

「あのさ」

……本当は
大丈夫なんかじゃ、ないんだろ。

「言えよ?ちゃんと」

涙で潤んだ瞳が俺を捉える。

「辛いとか。苦しいとか。そういうの、我慢しないで言ってくれ。俺じゃなくて、他の……侍女とかにでもいいから」

本心から出た言葉だった。
一人だ、って。君に思ってほしくなかった。


「……うん。ありがとう」


いつも通りの笑顔で交わされ、心の距離を思い知る。
彼女との間には、見えない壁が高く高くそびえていて。
そんなの当たり前のはずなのに。
もどかしさが、ただ募る。