きみが春なら

「まさかな。悪い冗談はよせ」
体を揺すり頬をつねってみるもハルは完全に熟睡していた。

「お、前……」
消化不良の欲求が行き場を失い、怒りを通り越し呆れてしまう。

どこまでバカにすれば気が済むんだ。

ぼすん、と隣に身を投げ寝顔を眺める。
呼吸に合わせて胸が上下している。

褒美をやろう、と言った時。
この女が欲しがったのは身を飾るものではなく、キッチンを使う許可だった。
出会った日のコック服姿を思い出す。朝食を褒めると嬉しそうに笑っていた。

「……金のかからない女だな」

その代わり手がかかるが。

王族に生まれた俺が今まで見てきた女たちは豪華なドレスを身に纏い、いかにして自分を美しく気高く見せるかに心血を注いでいた。
そいつらと全く違う。

親を亡くし修道院に引き取られたと言っていた。
……やはり育ちによるものか、と静かに思う。

「ふ。ふふ」

こちらへ寝返りを打ったハルは、ちょうど俺の胸におさまる格好となった。

「寝ながら笑うな」
そろそろパーティーに戻ろうと思っていたのに。体の力が抜け、そんな気も失せる。
熱い体を胸に閉じこめ、黒髪に鼻を埋めた。混じっていく体温。こちらにまで睡魔が忍び寄る。

……こんな風に甘えたり出来るのか。

マナトに運ばせなくて良かった、と。
そう思ったのを最後に俺の意識も途切れた。