きみが春なら

「なっ……!?おい、」
ロレンツォ様が倒れ込むハルに向かって手を伸ばす。
それを横目で見ながら背中を支え、近くにあった椅子に彼女を座らせた。

さっきから足元がふらついていると思っていた。
駆け寄ったまさにその瞬間、彼女は気を失った。

「こいつは……」

ロレンツォ様がため息を吐きつつ頭を掻く。余興に目を奪われている客が多く、騒ぎになっていない事にひとまず安堵する。

「バカが。あんなに呑むからだ。口を付ける程度にしろと言ってあったのに」
「緊張して寝不足だと仰っていましたから。余計に酒がまわったんでしょう……っと、」

椅子の上で身じろいだハルがまたバランスを崩し、慌てて両肩を掴む。頬を赤く染めた彼女はこてんと俺に寄りかかり、そのまま眠ってしまった。

「部屋までお運びしてきます」
「……いい。俺が行く」
「え?」
抱きかかえようとした俺を、王子が制す。

「しかし、ロレンツォ様までこの場を離れては」
「いいから。下がれ」

俺を手で払うと、王子はハルを横抱きにしさっさと歩き出した。

「……」

自ら面倒事を引き受けるなんて、今までは絶対無かったのに。
ホールを出て行く背中を見送りながら、なぜか複雑な想いが胸に去来する。


── 結局、二人は
そのまま戻ってこなかった。