きみが春なら

頼みの綱はもう彼女だけだった。
本来主賓の立場であるが、余興の時間を少し長めにとる事で抜ける時間を確保した。
あちこちで段取りを整えるうち、あっという間に一時間ほどが経った。

「マナト」
キッチンの様子を見に行くと、ちょうど扉から彼女が顔を出したところだった。

「これ。味見してもらえる?」

差し出された皿に乗っていたのは、焼き色がついたレモンパイ。表面はクリームで滑らかに覆われている。
フォークで切り分け口に運ぶと、甘酸っぱい香りが鼻から抜けた。

「……」

心配そうな顔つきの彼女を、思わず見つめてしまう。
「だ、だめかしら」
「あ、いや。美味くて……驚いてる。美味い」
もう一口食べてみたが、やっぱり甘さと酸味のバランスが絶妙だ。
料理に全く詳しくない俺ですら、いつも食べている物と決定的に違う事は一発でわかる。

「すごいな。こんなの食べた事ない」
「本当?喜んでもらえるかな」
「絶対、大丈夫」
良かった、と。彼女の顔が綻んだ。

「それじゃ、時間がきたら出してもらうようにお願いしてくる」
「ハル」
キッチンに戻りかけた背中を呼び止める。

「ありがとう。……助かった」

振り返った彼女は、優しい顔で頷いた。