きみが春なら

「べっぴんさんを貰ったよなぁ。ロレンツォ王子」
カウンターに座った年配の客がばさっと新聞を広げた。

どうしても耳が反応するが、何でもない風を装い酒を作る。それくらいの演技力はもう身につけていた。
ケビーは明らかに俺を気遣い、返事に困っている様子だ。
「えぇと……そうですね」
「しかし異人が王族に入るとは。時代も変わったな」
横目で盗み見た新聞の一面には、現女王から引き継いだティアラを頭に乗せるハルの写真が大きく掲載されていた。

「……」

グラスの中でからん、と氷が回る。

夢なんじゃないか、と未だに思う。
夢であってほしい、と未だに願ってしまう。


釈放された後、身も心も瀕死の状態でこの店に着いた。
ケビーに病院に担ぎ込まれ、そのまましばらく入院した。散々迷惑をかけたのに、退院した後も変わらず雇ってくれている彼には本当に頭が上がらない。

事の顛末を話した時、ケビーは泣いた。
『決断できるまでゆっくり考えろ』と言われた。

そうして、俺は
ハルと暮らしていた家に今も一人で住んでいる。
幸せだった日々の思い出を、何にも手放せないまま。


── 『さよなら』。


仕事を終え家に戻ると、毎日涙が出た。
牢で返された指輪がテーブルの上からいつも冷たく俺を見ている。
『心配しないで』と笑った彼女。俺の為に身を犠牲にした彼女。
あんな要塞みたいな城で。今、どんな気持ちでいるんだろう?

── 『すぐに国を出るって。』
『私と約束して?』

それは
今度こそ永遠に、彼女と別れる事を意味していた。

……いつか。やがて。
最後の約束を守らなくてはいけない日がくるのだろうか。

その選択を、自分がする時が
── くるのだろうか。