きみが春なら

◇ ◇ ◇ ◇

「ここから暗くなるから。手を貸すよ」
「ありがとう」

翌日の夜。
約束通り、俺と彼女は二人で山道を上っていた。
街灯の光が届かなくなる頃、手をとった。

「怖くないか?」
「大丈夫。あなたがいるから」

月明かりの下。ふわんと微笑む彼女に、俺も微笑みを返す。
何気なく発された言葉に違いないのだが妙に胸をくすぐって、繋いだ手に力を込めた。

……馬鹿だな。
こんなに初心なはず無いのに。
何で、

「ほら。着いた」
最後の急斜面は、引っ張り上げるようにして上らせた。

「わぁ……!」
目の前一面に広がる夜景に彼女の顔が輝く。

「良い場所だろ」

何度も頷きながら、目は夜景から離せないようだった。思った以上の反応に吹き出してしまう。

「ベンチがある」
「ガキの頃に俺が置いた」
「本当?」
「大変だったんだぜ?これ担いで上ってくるの」

並んで座ると、肩先が触れ合った。

……こんなに小さいベンチだったんだな。
初めて知った。ここに誰かと座った事なんて無かったから。

「こうして見ると、この街も広いのね」
「あぁ。あの辺が君と落ちた噴水」
顔を寄せ、あの辺、と指し示す。

「そしてあの辺りが、君が誘拐されかかった裏通り」
「もう」
くすくす笑いあい、また光の流れる街を眺めた。

夜景に照らされた彼女の横顔は本当に楽しそうで。あぁ、と思う。

……良かった。
やっぱり、連れてきて良かったんだ。