きみが春なら

夢をみていた。
繰り返し、繰り返し。
同じ夢を。


「起きろ。本当に死ぬぞ」

ぼうっと目を開ける。看守じゃない、きちんとした身なりの男が俺の頬をぴしゃぴしゃ叩いている。
一瞬、ここがどこだかわからなかった。
「飲め。」
瓶に入った水が差し出される。震える手で受け取り、一息に飲み干した。

「ほら。一気に食うなよ?」
その男は、今度はパンを放って寄越した。

どれくらいぶりの食事なのか思い出そうとしても思い出せない。一口分千切り、おそるおそる口に運ぶ。
咀嚼し飲み込んだ瞬間、ぐわっと吐き気が襲ってきて思わず口を抑えた。空っぽの胃が食べ物を受け付けなくなっているらしい。しばらくその姿勢から動けなかった。

「お前に釈放の命が下ってる。」

少しずつパンを水で流し込んでいると、そう告げられた。牢の鍵が開いている事に気付いたのはその時だ。

「なぜ……突然」
「王子の。いや、王子妃の命だ」
「王子妃?」
「あぁ。ロレンツォ王子と正式に婚約された、ハル様の命だ」


── 『さよなら。』


たった四文字の言葉なのに
理解するのを脳が拒絶していた。

君は、
君は。
何て事を。