きみが春なら

家臣らしき男性に黙って付いて歩くうちにその部屋に着いた。
重厚な造りの扉をノックし、促されるまま中に足を踏み入れる。

「最後の別れは済んだのか?」

中央に置かれた大きな机に座る王子様が私を見る。

「……ええ」

彼はにやっと笑い、こちらへ歩いてきた。

「覚悟は決まったな」

目の前に差し出された右手。

「……」

寒く薄暗い牢の中でふらつくイーヴァンの姿を見た時、僅かに残っていた迷いは完全に消え去った。
空っぽの頭で跪く。

『やめてくれ!』

彼の声がまだ耳に残っている。


── ねぇ。これで良いよね?
あなたの命より大切なものなんて無いから。


「……謹んでお受け致します。ロレンツォ王子様」