きみが春なら

「お前の逮捕に協力せよとの要請があったものでな。代わりに捕らえたまでだ」
「嘘だ。そんな筈はない」
「ほう?何故だ」

ごふっと咳こんだ。あばらが痛くて喋れない。
俺の様子を見たロレンツォは牢の鍵を開け中に入ってきた。
わざわざ隣に屈み込む。

「あの女。肝心な時には、ちゃんと色っぽい表情もするのだな?」

耳元でそう囁かれ、目を見開いた。
「なに、を……何をした!?」
ロレンツォは笑みを浮かべたまま、もったいぶったような視線を寄越す。頭が沸騰しそうなほど強い怒りに身が震える。

「お前の名を呼んでいたぞ?泣きながらな」

── 『好きなの。他の人じゃ駄目なの』

頭の中に
君の涙が蘇る。

「貴、様……!」

生まれて初めて、誰かにハッキリと殺意を抱いた。
もう一発蹴りが入りそうになり受け止めた時、あばらにまた激痛が走った。

「ハルは。絶対に渡さない」
「ははは!そんな体で。こんな場所から何が出来る?」
ロレンツォは俺の髪をひっ掴んで持ち上げた。

「安心しろ。きっと救世主が現れて、お前を助けてくれる」
「救世主?」
「そうだ。あと少しの辛抱だぞ?」

急に手を離され、がつんと床に頭を打ち付けた。

「お前の大事な、あの女。代わりにたっぷり可愛がってやる」

高らかな笑い声と共に、遠ざかる足音。

心で君を呼ぶうちに
いつの間にか意識を失っていた。