きみが春なら

けれど。急ぎ足で帰った家に、イーヴァンが帰宅した形跡は無い。
手付かずのままの朝食を見た時、背筋に寒気が走った。

── 何かあったのかしら。
荷物も置かず、彼の勤め先のバーへ向かった。


今度からここで働く、と随分前に一度教えてもらったきりの場所。記憶を頼りに辿りつくまで少し時間がかかってしまった。
ほっとしたのも束の間、目に飛び込んできたのは『臨時休業』の看板が下げられた扉。数度ノックしてみるも、反応は返ってこない。

足下から不安がせり上がる。冷えた指先を擦りながら、扉を背に屈み込んだ。


その場で夜更けまで待ってみても誰かが店から出てくる事も、また店を訪れる事も無かった。
仕方なく家に戻り、疲れきった体をベッドへ横たえる。

「イーヴァン、」
呟いた彼の名が、暗闇に溶ける。

「どこにいるの……?」

隣に手を伸ばしても、何にも届かない。

……どこかで倒れたりしてたらどうしよう。

そんな思いが胸でくすぶり、涙が浮かんでしまう。
一人で使うには広すぎるベッドで浅い眠りを繰り返した。