きみが春なら

「俺はそれなりに長くこの国にいるけど、王族からの求婚を断る事が出来た例は知らない。中には君たちみたいに相手がいる奴もいたのかもしれないが……それでも皆、指名されてすぐに結婚式を挙げてきた」
それに、と続く言葉。
「今から出国するのはどう考えても無理だ。彼女の名前は今や全国民が知ってる。不審な動きがあったら必ずバレる」
「……そうだよな」

深く深く、ため息を吐く。
八方塞がりだった。完全に手詰まりだ。
『幸せ』って。昨日の君はあんなに笑ってたのに。

「だけど渡せない。渡せないんだ」
「……イーヴァン」
「いくら王族相手でも。どうしても」
そう呟いた時だった。

「イーヴァン、というのは貴様だな?」

乱暴に開け放たれたドアから、大柄な男が三人入ってきた。
「な、」
そのうち二人にあっという間に両側から拘束される。抵抗しようとすると腕を捻られた。

「おい、やめろ!いったい何だ!?」
ケビーが叫ぶ。

「この男を連れていく。これは王室命令だ」
「王室だと?」
「来い!」

急に腹に一発拳を入れられた。まともに食らってしまい、膝を下りそうになった所を引きずるようにして連れ出される。

「イーヴァン!!だ……誰か来てくれ!」

ケビーの声が深夜の路地にこだまする。


「やめ……っ、」


── ハルが、
ハルが一人になる。


必死の抵抗空しく、俺の体は車に蹴り込まれた。