きみが春なら

その日。ケビーの店は大盛況だった。

「あーあ。やっぱり一夜でプリンセスになれるなんて夢物語よね」
「パーティーで頑張ってアピールしたのに。どうしてどこの誰か知れない女が選ばれるのよ?」
「きっと華族ですらない女よ。聞いた事ない名前だったもの」
カウンターの真ん中に陣取った若い女三人が、ずっと愚痴を垂れている。

「まぁまぁ、そう気を落とさないで?そのうち、自分だけの王子様が迎えにきてくれるから」

ケビーは彼女たちに追加のグラスを差し出した。上手い事言う、と密かに感心する。

忙しく酒を作りながら店内を見回すと、テーブル席もほとんど埋まっていた。それぞれ王子の結婚の話題で持ちきりのようだ。

「イーヴァン。これ3番に頼む」
「ん」

座る暇も無く、飛ぶように時間が過ぎていく。もう寝たかな、と頭の片隅で考える。


やがて常連客の一人が店にやってきた。
「お。今日は大繁盛だな?」
「おかげさまで。ここ空いてますからどうぞ」
「あぁ」
男はカウンターの端の席に座り、帽子を脱ぐと同時に身を乗り出した。

「聞いてくれ。昼間、面白いものを見た」
「なになに?」
ケビーに話しかけたようだったが、食いついたのは女たちだった。男はそちらに体を向ける。

「王子と花嫁が一緒にいるところに遭遇したんだ」
「えー!!」

店中の視線を集めた男は、満更でもない様子で話を続ける。

「家だか仕事場だか知らんが、小さい店でさ。ものすごい野次馬の数だった。王子が突然馬で乗り付けて。迎えにきたぞ、って言ったんだ」
「か……かっこいいー!」
「本物の王子様じゃない!」
「背も高いし、お顔も素敵だしね。あぁもう、本当に悔しい」

カウンターは大盛り上がりだ。手を止めずに何となく耳を傾ける。王子に対するケビーの評価と、女たちの評価が正反対なのが笑えた。

「それで、どんな人なんです?そのプリンセス」
「それがさ。髪が真っ黒の女が出てきたんだ」


── どくん、と
心臓が跳ねた。