きみが春なら

「まさか。人違いよ」
「だって確かに言ったんだよ、ハル・ユミキって!そんな名前、この国に二人といるもんか。ねぇ、あんた!?」
デヴォイさんも神妙な顔で頷いた。冗談で言っているとは思えない。

「うそ……」

体温が急激に下がっていく。
その時、お店の扉が激しくノックされた。

「失礼!プリンセスが働かれているのは、こちらですよね?」
「探すのに苦労しましたよ。ノーマークの急指名だったものですから」
「ハル・ユミキさん。いらっしゃいますか!?」

外からはそんな声ばかり聞こえてくる。

「ほら、ごらん。早速新聞記者たちが集まってきた」
サリーさんがカーテンを開けると、カメラのフラッシュが連続して光った。
「取材だけならお断りだよ!大体、まだ開店前だ。大事なうちのコック、尾けまわしたりしたら承知しないからね!」
「ま、待って下さい。写真を一枚だけでも!」
「ハルさん。少しだけ出てきて下さいませんか!?」

サリーさんは忌々しそうな顔でカーテンを閉めた。
外はまだざわついている。


「どうして……?」


足下がふらついた。デヴォイさんが慌てて私を椅子に座らせてくれる。

『ハル・ユミキ』──『弓木春』は、戸籍に記載されている私の名だ。
身近で知っているのはこのご夫婦とディミトリだけの筈だった。

自分でも滅多に口にする事のない本名を
今、他人から何度も何度も呼ばれている。