蛍の季節に、キミはまた会いに来る

「もう古川は、自分の足で前に進めるよ」

黒崎くんが、涙をこらえながら言った。

「強くなったな」

舞い散る蛍の光が、少しずつ彼の姿を薄くしていく。

「いつでも、俺が背中を押してやるから」

私は、何度も頷いた。

見失わないように、必死に目で追いながら。

「古川、好きだよ」

「……私も。好き……大好き」

声が震える。

「俺の人生、短かったのかもしれないけど」

「……」

「古川に出会えて、濃い時間を過ごせた」

蛍の光に包まれながら、黒崎くんは笑う。

——私の、大好きな笑顔で。

「私も……こんなに人を好きになったの、初めてだよ」

涙を拭いながら、必死に笑う。

「素敵な時間を、ありがとう」

「……よかった」

小さく、安堵したように息を吐く。

「古川の笑う顔、見れて」

その言葉が、胸に刺さる。

「もう、安心だ」

一瞬だけ、言葉を区切って。

「……ありがとう」

最後に、やわらかく微笑んだ。

そのまま——

黒崎くんの体は、静かに光へとほどけていった。

夜空へ舞い上がる、無数の光。

まるで、星みたいに。

そこに残ったのは——

あのノートだけだった。

そっと拾い上げて、ゆっくりと開く。

文字は、すべて消えていた。

けれど。

水に濡れたときの、しわだけが残っている。

——確かに、ここにいた。

そう告げるみたいに。