蛍の季節に、キミはまた会いに来る

「……」

「俺も、古川と……もっと一緒にいたい」

その言葉に、胸が締めつけられる。

震える腕の力が、さらに強くなった。

——初めて聞いた。

黒崎くんの、弱音。

「……どうして……」

押し殺すような声。

それが、痛いほど伝わってくる。

黒崎くんは、そっと体を離し、私の頬に触れた。

小さく揺れる瞳で、まっすぐに見つめてくる。

「古川、好きだ。めちゃめちゃ好き」

その言葉で、遠い記憶がよみがえる。

幼い頃、交わした約束。

あの日の笑顔。

「優しく笑う古川の顔、ずっと忘れられなかった」 

「……黒崎くん」

「古川に言いたいことも、してやりたいことも……まだ、たくさんあったのに」

言葉が、途切れる。

「……ごめん」

私は、首を横に振る。

頬に触れる彼の手に、自分の手を重ねた。

その手を、黒崎くんがそっと取る。

そして——

ゆっくりと、距離が縮まる。

目を閉じる。

触れた唇は、驚くほど優しかった。

あたたかい。

何度も、何度も重なる。

もう離したくないと、確かめるみたいに。

再び抱きしめられる。

ただ、それだけなのに。

それだけのことが、こんなにも愛おしい。

私たちには——

この先が、ないから。

一秒が、こんなにも重い。

当たり前だった日常は、もう戻らない。

それでも。

この時間があったことを、きっと忘れない。

——明日。

とうとう、お別れだ。