蛍の季節に、キミはまた会いに来る

「あっ——」

ふたりの声が重なる。

咄嗟に伸ばした手は、空を切った。

バシャン!

ノートが、川に落ちる。

ゆっくりと、水に沈んでいく表紙。

『……ノートが……』

震える声。

それを聞いた瞬間、体が勝手に動いた。

気づけば、川に飛び込んでいた。

水は足首ほどの深さしかない。

それでも、足場は悪く、石に足を取られる。

思うように進めない。

いつもは穏やかな流れなのに、今日はやけに速く感じる。

手を伸ばす。

——届かない。

あと少しなのに。

流れていく。

待って。
お願い、行かないで。

「あっ!」

足を滑らせた。

苔の生えた石に乗ってしまい、そのまま尻もちをつく。

『古川っ! もうやめろ!』

黒崎くんの声。
でも、止まれない。

体を起こし、もう一度、手を伸ばす。

薄暗い川辺。

頼れるのは、蛍の小さな光だけ。

冷たい水が、服の奥まで染みてくる。

それでも——

「取れた……!」

指先が、やっとノートを掴んだ。

濡れて重くなった服に足を取られながら、岸へ上がる。

息を整える暇もなく、すぐにノートを開いた。

「お願い……消えないで……!」

黒崎くんの文字が、水に滲んでいく。

今にも、消えてしまいそうで。

ページ同士が張りついている。

無理に剥がせば、破れてしまう。

だめ……。

これは、絶対に——

失くしちゃいけない。