放課後、私たちは『普通のデート』のために並んで歩いた。
片手にはノート、もう片方は、私と手を繋ぐ。
学校から少し離れた商店街だから、他の生徒に見られることもないだろうってことだった。
放課後、手を繋いで歩いている私たちを見て、誰も不思議そうに見てくる人はいない。
彼が『蘇り』だと知っている人はいないのだから。
当たり前のことなのに、今の私たちにとってはそれが特別。
不思議な気持ちになって、すごく照れ臭かった。
私たちはコンビニで、アイスをふたつ買った。
片手で食べられる、コーンのチョコアイス。
アイスを食べながら交わすのは、たわいのない会話。
クラスの話、先生の愚痴。
どこにでもある、ありふれた帰り道だ。
だけど、私たちにとっては、ずっと憧れていた時間だった。
「こういうの、やってみたかったんだよな」
彼がポツリと言う。
私はアイスを頬張る黒崎くんを見上げた。
「放課後、こうやって古川と手を繋いで帰るの」
その言葉に照れて、私は唇を噛んだ。
この時間がずっと続けばいいのに。
そう思わずにはいられなかった。
ゲームセンターにも行って、休日には映画だって見に行って。
帰りはたまに門限を過ぎて怒られたりもして。
経験したいことは、山ほどある。
「あっ!古川、やばいっ! こっち!!」
突然黒崎くんが私の手を引っ張って、建物の間に隠れた。
「えっ⁉︎なに?もしかして、誰かに見られた?」
建物の間はとても狭くて、黒崎くんとの密着度が増す。
誰がいたのか少し顔を出して覗こうとすると、黒崎くんがそれを止めて、私の代わりに黒崎くんが通りを覗き込んでいた。
私はただバレていないか緊張しながら、息を潜めるだけしかできない。
「ねぇ、行った?」
小声で聞くと、黒崎くんは顔を通りに向けたままシーっと言う。
誰がいたの?
黒崎くんの家族とか?
それとも、学校の人?
とにかく、黒崎くんだと気づいていませんように。
私が祈るように目を閉じて息を吐くと、黒崎くんがクスクスと笑いながら私を見下ろしていた。
「え?なに?」
目を丸くして聞くと、黒崎くんはもっとおかしそうに大きく笑った。
「うっそ〜。誰にも見られてませ〜ん」
「え〜?もうっ!今、嘘はよくないっ!」
私が強めに肩を黒崎くんにぶつけると、黒崎くんはよろめきながら楽しそうにケラケラと声を出した。
「ごめんごめん。ちょっとやってみたくて」
「もう、心臓に悪い。本当に見られてたらヤバいんだから」
「あ〜面白かった!古川の焦った顔、超かわいい!」
「からかわないでよっ!」
私が大きな声をあげると、黒崎くんは「あっ」と、私の口元を見た。
「古川、口にアイスついてる」
「え、うそ、どこ?」
手で拭おうにも、黒崎くんの手とアイスで手が塞がっていて拭くことができない。
舌でぺろっと舐めてみたけど、まだ取れていないみたいだ。
どうしよう。
どうやって拭こう……。
「……え?」
黒崎くんの唇が近づいてきた。
突然のことで、思考停止。
大きく目を見開いて黒崎くんを見上げると、私をみて優しく微笑んでいる。
「取れた」
キ……キス。
そんな、突然……。
「ハハハ。顔、真っ赤」
間抜けな私の顔を見て、黒崎くんが笑う。
そんな黒崎くんの頬も、ほんのり赤い。
「く、黒崎くんだって赤くなってるし」
私が目をキョロキョロ動かすと、『うん、俺も、余裕ない』と、目を泳がせた。
幸せ。
なんでこの時間がずっと続かないんだろう。
なんで終わりがあるんだろう。
こうやって放課後一緒に帰れるだけでも、今の私には十分すぎる幸せなのに。
他のことは望まないのに。
どうして、この普通の幸せを続けられないんだろう。



