「その手を離してください」
低く静かな声が割って入った。
男たちが振り返る。
そこに立っていたのは、迅さんだった。
「……なんだ?」
男の一人が眉をひそめる。
迅さんは私の隣に立ち、静かに言った。
「獅堂家の者です」
その一言で空気が変わる。
けれど男たちは怯むどころか、にやりと笑った。
「へぇ……獅堂家」
もう一人の男が、面白そうに言う。
「坊ちゃんの犬か?」
空気がぴんと張り詰め、迅さんはするどい目つきでこの人たちを睨む。
「この方から手を離してください」
静かな声だった。
男はわざとらしく肩をすくめる。
「怖ぇ怖ぇ」
「でもよ」
男の視線が私に向く。
「その婚約者、大丈夫か?随分フラフラしてるが」
もう一人が笑う。
「天下の獅堂家も落ちたもんだな、こんなところで嫁が酔っ払ってるとは」
何も言えなくなり、俯く。
迅さんの声が、低く落ちた。
「それ以上は……」
一瞬、沈黙が落ちる。
男たちは顔を見合わせて、くすっと笑った。
「……まあいい。今日は挨拶代わりだ」
去り際に、男が振り返る。
「獅堂家に伝えとけ」
その笑みは、どこか不穏だった。
「俺たちは、あんたらのやり方が気に入らねぇんだ」
「その可愛い嫁をよこすなら話は別だがなっ」
二人は笑いながら、人混みの中へ消えていった。



