頭の中が一気に騒がしくなる。
その時だった。
ふと、獅堂様の視線がこちらに向いた。
一瞬だけ、確かに目が合った気がする。
でも次の瞬間、彼は何事もなかったかのように歩みを止め、静かに微笑んだ。
「……九条さん、おはようございます」
澄んだ声。
完璧な敬語。
私は慌てて一礼した。
「お、おはようございます……獅堂様」
胸の奥が、また小さく音を立てた。
今朝聞いた話を思い出すと、ドキドキして顔が見れない。
獅堂様は同居の話を聞いているんだろうか。
この人と、これから一緒に暮らすなんて……
「今日は少し顔色が優れませんね。昨夜、あまり眠れませんでしたか?」
そう言って、獅堂様は自然に私の前に立つ。
身長が高いせいか、まるで盾のようだった。
その瞬間。
「九条さんと獅堂様が……」
「今の見ました?」
「距離、近すぎ……」
教室のあちこちから、抑えきれないざわめきが広がる。
ちょ、ちょっと待って……?
確かに、前から挨拶はしていた。
でもこんなふうに、心配するような言葉をかけられたことはない。



