私が通うこの学校は、いわゆる名門校だ。
家柄、将来、立場。
生まれた時から“役割”を背負った人たちが集まる場所。
だからだろうか。
校門をくぐると、いつものように小さな視線が集まる。
「九条さんよ!今日も麗しいわ」
「なんて素敵な笑顔なの、お顔も小さくて羨ましい」
ひそひそと聞こえる声に、私は小さく背筋を伸ばし、「ごきげんよう」と微笑む。
注目されることには慣れているけど、時々疲れる事もある。
この丁寧な言葉使いだって、小さい頃から注意されてきたけど本当は気にしないで普通に話したい。
それに、今朝はスープをこぼして制服を汚しかけたし、左の靴下が裏返しのまま履いていたのだって、さっき下駄箱で気付いた。
そんなドジな九条花音なんて、誰も知らない。
教室へ向かう廊下を歩いていると、急に空気がざわついた。
「来た……獅堂様だ」
「先日の全国模試でも上位だったそうだぞ」
視線が一斉に前方へ集まる。
その先に現れたのは、背の高い一人の男子生徒だった。
獅堂要。
この学校で知らない者はいない存在。
誰にでも穏やかで、礼儀正しく、非の打ちどころのない……完璧王子。
すれ違う生徒たちが、自然と道を空けていく。
……その人が。
私の、婚約者。
そう思った瞬間、心臓が大きく跳ねた。
無理、無理無理無理。
一緒に暮らすとか、聞いてない。
花嫁修業って、何から!?



