獅堂家……知らないはずがない。
財界でも名の知れた大財閥。
そして……
なぜか、脳裏に浮かんだ顔が一つあった。
同じ学校、同じ学年。
誰もが知っていて、誰もが遠巻きに見る存在。
まさか。
まさか、そんなはず……。
「では、詳しい話は改めて」
父はそう言って席を立つ。
取り残された私は、しばらくその場から動けなかった。
花嫁修業って……
同居って……
それで、獅堂家って……
頭の中が、完全にパンクしていた。
九条家に生まれた時点で、いつかはこうなると分かっていた。
分かっていた、はずなのに。
目の前で黙って見ていた母が口を開く。
「最初は苦しいかもしれない。でもね、不思議と人は慣れるものよ。私も、そうだったから」
その言葉に、私は何も返せなかった。
母もまた、名家の令嬢として政略結婚をした人だ。
今は穏やかに笑っているけれど、その裏にどんな時間があったのか……私は知らない。
九条家のために……
覚悟は、決めるしかない。
そう思いながらも、不安が胸に残ったまま、私はその日の登校時間を迎えた。



