でも……
「そこまで……なんですか?」
父は苦笑する。
「正直に言えば、な。今回の縁談は、九条家にとっても大切な話だ」
つまり……そういうことだ。
獅堂家と結びつけば、九条家は安定する。
私はゆっくり息を吐いた。
胸の奥が、少しだけ重いけど……。
「わかりました」
母が驚いた顔をする。
「花音?」
「私……頑張ります」
たとえ政略結婚でも、家族が笑っていられるなら……
それでいい。
名家に生まれた自覚はある。
将来のことも、ある程度は覚悟していたつもりだった。
「ありがとう、花音」
「はい……」
「それでだな……婚約者の家で、同居しながら花嫁修業をしてもらうことになっている」
父の一言で、空気が止まった。
「……同居?」
声が裏返る。
「ああ、そうだ」
「え、えっと……同居って、あの、一緒に住むって意味の……?」
母がにっこり微笑んだ。
「その通りよ」
――その通りじゃないです!!
さっきの憂いを帯びた表情はどこへ!?
心の中で全力で叫ぶ。
同居、しかも婚約者と。
どんな人かも知らない相手と、いきなり一つ屋根の下なんて……。
「ちなみに」
父が淡々と続ける。
「相手は、獅堂家のご子息だ」
その名前を聞いた瞬間、胸が小さく跳ねた。



