完璧王子×天然お嬢様~政略結婚のお相手は、喧嘩も強いんです~


「はい、人とはぐれてしまって……道もわからなくて」

「じゃあ大通りまで案内するから」

そう言って私の手を引いてくれた。

暗闇だったから少年の顔はよく見えなかったけど、多分同じくらいの年齢かな……

暗い路地を抜け、ようやく人通りがある道に出れた。

そして次の瞬間、ドンと夜空が光る。

花火の明かりが一瞬、彼を照らした。

横顔が綺麗……。

こんな状況なのに、そう思ってしまった。

「ここまでくれば大丈夫?」

「あ、はい!ありがとうございますっ」

「礼を言うのはこっちだから……」

少年は少し困ったように笑った。

「怖がらせてごめん」

「いえ……」

「助かった」

彼は誰に追われてるんだろう。

どうしてそんなに怪我してるんだろう。

初めて会う人なのに、気になって仕方がなかった。

「あのっ」

名前を聞こうとした瞬間、遠くから「お嬢様ぁー!」と呼んでいる声がした。

私のお付の人だ、あっちも気付いていないのか彷徨っているようだった。


「呼んでるんじゃない?」


私が頷くと、彼は一歩下がり

「じゃあ」と、背を向けた。

「あ……」

呼び止める間もなく、少年の姿は夜の人ごみに消えてしまった。

もう会うこともないのかな……


するとその時――

足元で何かが光ったことに気付いた。

小さな指輪。

掌に乗せると、まだ体温が残っている気がした。

あの少年のもの……?

追いかけようとしたけれど、もう姿は見えない。


――もしどこかでまた会えたら。

その時はこれを渡そう。


私は指輪をそっと胸に抱いた。

花火の音が遠くで鳴り続けている。

あの夜からずっと、花火を見るたびに思い出す。

名前も知らない、あの少年の事を……。