完璧王子×天然お嬢様~政略結婚のお相手は、喧嘩も強いんです~

花音を拒めなかった。

むしろ……救われていた。

だからこそ、……失えない。

あいつだけは……絶対に。

その瞬間、震えていた手に、ぐっと力を込めた。

「……行くぞ」

声が、さっきよりもずっと低く落ち着いている。

迅が無言で頷く。

その時だった。

遠くの廊下の奥で、人影が動いた。

黒いスーツを着た、見慣れない顔。

だが……その目つきで分かる。

「……いたな」

「はい」

互いに視線を交わす。

次の瞬間には、もう走っていた。


距離を詰めると、相手もこちらに気づいたのか、舌打ちをして振り向いた。

「チッ……!」

「逃がすかよ」

一気に間合いを詰める。

振りかざされた腕を払い、懐に潜り込む。

そのまま、腹に一撃。

「ぐっ……!」

体勢を崩したところを、さらに蹴り飛ばす。

壁に叩きつけられた男が、苦しげに呻いた。

「……誰の差し金だ」

襟元を掴み、引き寄せる。

こいつは……俺の婚約披露パーティにも潜り込んでいた、アルティウスの人間だ。

懲りずに俺の前に現れるとはな……

睨みつけると、男はにやりと歪んだ笑みを浮かべた。

「……はっ……いいのかよ、こんなとこで立ち止まってて」

「……何?」