完璧王子×天然お嬢様~政略結婚のお相手は、喧嘩も強いんです~

……想像したらぞわりと背筋が粟立った。

〝怖い〟

はっきりと、そう思った。

「……っ」

吐き気がこみ上げる。

脳裏に浮かぶのは、別の光景。

……母が倒れていた、あの日。

動かない体に呼びかけても、何も返ってこなかった。


志乃は言っていた。

俺は強い、と。

尊敬する、と。

……買い被りだ。

俺は、そんなもんじゃない。

母が死んで、平気なわけがなかった。

ただ……弱さを見せる場所が、なかっただけだ。

「……っ」

胸の奥にあった傷が、じくじくと痛む。

本当は、ずっと怖かった。

不安で、どうしようもなくて。

一人になったことが、ただ寂しかった。

でも……親父も祖父も信用できないこの家で、誰にそれを言えばいいのか分からなかった。

だから、全部押し込めただけだ。

何も感じてないふりをして、ここまで来た。

……なのに。

「……あいつが」

ぽつりと、零れる。

花音が……何も知らない顔で、当たり前みたいに隣に来て。

手を伸ばしてきた。

まるで、それが当然みたいに。