黒耀メンバーと会うため、屋敷を出ようとしたその時だった。
「要」
低く、よく通る声。
……最悪だ。
内心で舌打ちしながら、ゆっくり振り返る。
「父さん、帰ってらしたんですね」
そこには獅堂家当主である俺の父が立っていた。
鋭い視線が、まっすぐこちらを射抜く。
「どこへ出かけるんだ?」
一瞬で、表の顔に頭が切り替わる。
何事もないように、自然に口角を上げた。
「友人に誘われまして」
穏やかに、柔らかく。
「絵画展に顔を出そうかと」
用意していたチケットを取り出し、軽く見せる。
海外の有名画家の来日展示。
適当に選んだが、こういう場にはちょうどいい。
父はそれを一瞥し、わずかに頷いた。
「……そうか」
短い返答。
だが、その視線はまだ外れない。
「昨日の件のことは聞いた」
――毒入りの件か。
「はい」
「朝比奈家のご令嬢には気の毒なことだが……うちが無関係とは言いきれまいな」
「ええ」
淡々と答える。



