「命に別状はない。医師の話では、数日もすれば完全に回復するらしい」
「よかった……」
思わず、ほっと息を吐く。
「ただ」
その一言で、空気が引き締まる。
「紅茶に混入されていたのは、軽度の神経系に作用する薬物だった」
「え……」
「量が少なかったのが幸いだな。だが……」
少しだけ、視線が落ちる。
「あいつが……かなり怯えてる」
胸が、またぎゅっとなる。
あんなことがあったんだ。
怖くないわけがない。
「いつも冷静で取り乱すことないヤツだったけど……さすがに今回は堪えたらしい」
「そう……ですよね」
「誰がやったのか、まだ分かっていない」
低く、淡々とした声。
でも、その奥にあるものが、ほんの少しだけ滲んでいた。
「……警察も動いている。こっちでも調べているが、まだ尻尾は掴めていない」
「……」
大我さんの言葉を思い出す。
大我さんのお父様が……今ここで言えば、すぐに解決するかもしれない。
志乃さんも安心できるはずなのに。
それなのに……
言葉がどうしても出てこなかった。



