完璧王子×天然お嬢様~政略結婚のお相手は、喧嘩も強いんです~

ぽろぽろと、涙が零れ落ちる。


「こんなことしたって……振り向いてくれるわけないのに……」


その時だった。

「……花音様」

迅さんの声が、少し低くなった次の瞬間、ぐっと、腕を引かれた。

「……え?」

気づいた時には……迅さんの胸に、軽く引き寄せられていた。

一瞬、何が起きたのか分からない。

でも、背中に回された手がそっと、でも確かに力を込めていて。

「……っ」

驚いて顔を上げようとした、その瞬間。

「……それ以上、言わないでください」

耳元で、低く囁かれる。

いつもより近く、抑えきれないような。

「そんな風に、自分を下げる必要はありません」

強くはないのに、逃がさないみたいな腕。

心臓が、一気にうるさくなる。

「花音様は……」

そこまで言いかけて、ぴたりと止まる。

空気が張り詰める。

「……」

一瞬だけ、腕の力が強くなった。

離したくないみたいに。

でも次の瞬間。

はっとしたように、すっと手が離れる。

わずかに、指先が名残を惜しむように動いて……すぐに止まった。

「……失礼しました」

いつもの距離に戻る。

まるで何もなかったかのように。

でも、さっきまであった温もりが消えない。