「くだらないな」
そう言って、要さんがはぁっと短く息を吐く。
「婚約者だから守ってるだけだ」
婚約者だから守る……その言葉が胸に引っかかってしまう。
嬉しいけど、どこか少しだけ寂しい。
「なるほどね」
大我さんが軽く頷く。
「もう行くぞ、花音さんもこんなやつに構っている暇はないはずだろ」
そう言って私の手を引き歩きだす。
背後で小さく笑う声が聞こえた。
「またね」
そう言われたが、振り返らなかった。
でもあの人の視線がずっと背中に刺さっている気がした。
要さんに手を引かれたまま、廊下を歩く。
こちらを一度も振り返らずに。
「あの……要さん」
思い切って声をかけるが、返事はない。
ただ、そのまま歩き続ける。
握られた手は、しっかりしていて。
離れないようにって言われているみたいで。
……なのに。
「……なんであんなこと引き受けたんだよ」
低い声が、ぽつりと落ちた。
「え……?」
「学校案内なんて」
振り返らないまま、続ける。
「花音さんはレッスンがあるだろ」
少しだけ、責めるような口調。
「でも、頼まれて……」
「そんなの断れ」
思わず言葉に詰まる。
「余計なことに首突っ込むな」
冷たい言い方に胸が苦しくなる。



