完璧王子×天然お嬢様~政略結婚のお相手は、喧嘩も強いんです~

近い……

無意識に一歩下がった。

その反応を見て、くすっと笑う。

「だからさぁ、そんな警戒すんなって!俺が何したよ?」

警戒してしまうよ。

さっきの教室での空気。

要さんとのあのやり取り。

忘れられるはずがない。

「頼まれたので……ちゃんと案内します」

図書室、中庭、特別棟――

一通り案内をしていく。

その間、早乙女さんはほとんど何も言わなかった。

ただ、時々……

じっと見られている気がして、落ち着かない。

何を考えているのかわからない人だな……

人気のない渡り廊下に差し掛かった時だった。

ふと、足が止まる。

「……九条さん」

静かな空気の中、名前を呼ばれてびくっとする。

振り返ると、早乙女さんがこちらを見ていた。

「はい……」

「その敬語、疲れねぇの?」

「疲れません」

「ま、いいけど」

関心あるのかないのか……

「名前、花音だろ?」

「そうですけど……」

「じゃあ花音って呼ぶわ。俺のことも名前で呼べよ」

「えっ……?」

一瞬、固まる。

「さおとめ、だと長ぇし」

「で、でも……」

「大我でいい」

当然のように言われる。

「じゃあ……大我、さん」

少しだけ間を置いて、そう呼ぶと。

「まぁ、それでいいや」

満足したように笑った。

……なんだろう、この人。

調子が狂う。