ひかるくんには何でも見えている




 それから、昼休みのたびにひかるくんと校内をまわって魔を探す日々が、ずっと続いた。


 さらに、朝も時間を合わせて途中から一緒に登校したり、中間テスト前で吹奏楽部が休みになったときは、下校の時間もひかるくんに合わせるようにした。



 一緒といっても、横に並んで歩くのはまだまだ気が引けて、少し離れてはいたけど。


 それでも、魔が見つからないまま5月の終わりになる頃には、仲良い子には勘付かれていたみたいで。


「美沙ちゃんさ、岩戸と仲良くなったの?」


 中間テストが終わった次の週のある日、登校して席についたわたしはいきなり七海ちゃんに聞かれた。




「えっ?」

「とぼけないでよ〜帰る方向全然違うのに、一緒にいるの見たって子結構いるんだよ。ってかあたしも昼休みに2人が校庭で一緒にいるとこ見たし」


「ああ、ほら神社の家の子なんて珍しいから、ちょっと気になった、というか」


 わたしは適当にごまかそうとする。


 正直、魔がここまで見つからないとは思わなかった。ひかるくんも1週間ぐらいで見つかると思ってたらしい。

 だから、あまり変に目立って色々聞かれる前に、昼休みの見回りも無くなると思ったんだけど。


「確かに。岩戸の家って先祖代々、上橋に住んでるってことなんだよね〜歴史を感じるなあ」


 もちろん、七海ちゃんも魔や守り手については何も知らないから、本当のことは言えない。


 とすると、他で何か、わたしとひかるくんの接点を言わないと怪しまれる。



「あ、そうそう! そういう歴史みたいなの、わたし好きで。それに上橋神社は昔から何度も行ってたから、気になっちゃって思い切って話しかけたの」

「ふ〜ん、それで岩戸と仲良くなれたの? 本当にそれだけかしら、天野さん?」


 そこで、七海ちゃんとは別の声が聞こえてきた。

 おしゃべりで高い声の七海ちゃんとは正反対の、とても落ち着いた声。


「あれ、どうしたの白雪(しらゆき)ちゃん? もしかして、岩戸の話してたから気になっちゃった?」

「それはまあ、岩戸とは長い付き合いなので」


 にやにや笑う七海ちゃんに、表情を変えずに言い返す彼女。

 静かなのに、よく通る声だ。



 彼女はクラスメイトの氷川(ひかわ) 白雪(しらゆき)。七海ちゃんやひかるくんと同じ小学校で、今のクラスでは学級委員として何かとまとめ役ポジションになっている子だ。


「で、天野さんどうなの? わたしも見たの、制服姿のあなたが上橋神社の近くをうろついてるのを。たまにいるのよ、岩戸やそのおじいさんの白はかま姿の物珍しさに惹かれて来ちゃう女子が」

「え、わたしは別にそういうわけじゃ」
「ほんとに?」


 白雪ちゃんがわたしの机にバンと両手をつき、それに合わせて腰まである白雪ちゃんの黒髪がたなびく。

 迫ってくる白雪ちゃんの顔も、声も、なんだか必死だ。


「くれぐれも、岩戸の邪魔なんてしないで。岩戸は神社の後継ぎとして頑張ってるんだから」

「それは、わたしも知ってる……んだけど」

「部外者の天野さんが思うよりもずっと、神社の後継ぎって大変なのよ。そりゃわたしも全く会話するなとかは言わないけど、必要以上に色々聞こうとしないでね。神社は上橋の街にとって、とても大事なものなんだから。わかった?」


「……あ、うん」

 声の圧力に押されて、わたしはうなずくしかできなかった。

 白雪ちゃんはそれを見届けると、自分の席に戻っていく。



 その後ろ姿を見ながら、七海ちゃんが小声で言った。

「――いやあ、白雪ちゃんがあんな直接言ってくるとは」


「直接?」

「うん。……白雪ちゃんと岩戸って、結構家族ぐるみで仲良くてさ」

 聞くと、白雪ちゃんの家――氷川家は江戸時代より前から上橋の街を取りまとめていた、とても由緒ある家柄らしい。

 その当時から上橋のシンボルみたいな存在だった上橋神社の人々、すなわちひかるくんの岩戸家とはずっと交流が続いており、今でも神社の活動資金を氷川家が寄付したりしているんだとか。


「ほら、上橋神社から商店街と逆側の大通りを越えると、白い塀に囲まれたでっかい屋敷あるでしょ? あれが白雪ちゃん家」


 ……ああ。

 確かに、わたしの家の10倍ぐらい広そうなお屋敷が、神社のすぐ近くにある。


「白雪ちゃんの家、お金持ちだとは聞いてたけど」

「そうそう。で、神社との関係も深いから、お祭りとかでも運営側で一緒にいたりするの。岩戸のおじいさんとか、ずっと白雪ちゃんの両親と話し込んだりしてるし」


 なるほど。

 親同士がそんな感じなら、確かに白雪ちゃんとひかるくんが仲良くなっても不思議じゃない。



 でも、と思った。


 その白雪ちゃんも、魔とか守り手のことは知らないはず。


 ひかるくんも司郎さんも、今現在把握している守り手はわたしとひかるくん自身だけ。

 他の人に、このことを話してはいないだろう。


「今はクラス離れちゃってるけど、小学校で同じクラスだったときはいつも一緒にいたからね、あの二人。班分けとかでも一緒になることが多くて、ふざけた別の男子がカップルとか言って白雪ちゃんを怒らせたり。……あ、けどね」


 そこで七海ちゃんは、わたしの耳元に顔を近づける。



「多分白雪ちゃん、本気で岩戸のこと気になってると思うんだ」


「気になってるって?」
「それはもうやっぱり、男女としてよ。じゃないと、最近岩戸と一緒にいる美沙ちゃんに、あんなことわざわざ言いに来ないって」



 そう言われて、わたしは白雪ちゃんの方に目を向ける。



 目が合ったとたん、思いっきりにらまれて、わたしは視線をそらした。