いらないのは○○の記憶

【梨香side】
「これ、一万で買わない? 嫌な記憶を全て消せる薬らしいよ」
 特に消したい記憶なんてなかったから、知らないおじさんから道端でもらった薬をお小遣い稼ぎのために優奈に売った。
「……嫌な記憶、か。うん、買う!」
 優奈が笑顔で答えた。一瞬、彼女の瞳の奥が怪しげに光ったような、気のせいか。
 その場で飲んだ優奈。
「どう? 嫌な記憶忘れた?」
 私を眺めてぽかんとする優奈。
「……あなた、誰ですか?」
 私の記憶を全て忘れてしまった?
 私が、優奈にとって嫌な記憶?
 そんなはずはない。いつも何してもにこにこしていて、命令も喜んで受け入れてくれていた。幼い頃からずっと一緒にいて、大人しい優奈とは喧嘩になることは一度もなかった。
「優奈、私を忘れたの?」
 優奈の腕をいつものように掴むと、怖いものから逃げるように私の手を振り払い去っていった。
 次の日からは冷たくされる毎日。だけど私を思い出してほしいから優奈のクラスに会いに行ったし、毎日優奈についていき、ずっと話しかけていた。
――もう意地悪しないから、優奈のそばにいさせて。

【優奈side】
「もう付きまとわないで」
 怯えたふりをした私に押された梨香は、中学校の階段の一番上から落ちた。梨香は私に落とされたことを周りに隠した。薬を飲ませたことが周りにバレたくないから? いや、私と仲良くしたいから。仕方ない、そろそろ仲良くしてやろうかな。その日から、仲良くしてあげた。
 それからしばらく経った。私は通っている中学校に向かう途中、コンクリートの段差に引っかかり転んだ。
「優奈、大丈夫? えっ、膝から血が出てるよ」
「大丈夫だよ!」
「大丈夫じゃないよ……これ、貼ってあげる」
 梨香はポーチから絆創膏を出すとしゃがみ、私の膝に視線を合わせた。優しくなったね、梨香。私は上から見下ろすと絆創膏を膝に貼る梨香を眺め、わずかな笑みを浮かべた。そして視線は梨香を越え、奥にいる薬を売るおじさんへ。おじさんと目が合うと微笑み合う。

 梨香は記憶から消したい酷いことをたくさん私にしてきたよね。あのね、階段から落としたのはわざとだよ。積み上げられてきた嫌がらせの仕返し。あと「バカ」「私がいないと優奈はダメだね」とかも言ってきたよね。それは梨香、あなたのことだよ――。

 実はね、薬の効き目はゼロで。
 全てが計画通り!