俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~

 思い返すだけで腹が煮えくり返る。あの台詞。あの態度。――出産という命がけの仕事を終えた女性にかけるべき台詞だなんて到底思えない。けいちゃんは、育児をいったいなんだと思っているのだろう――綾乃の、内心での丈一郎に対する不満は、鬱積するばかりだ。綾乃が戻ってきてからの、彼といえば。あれ以降。

 会話らしい会話をしていない。平日は、丈一郎の帰宅が遅いし、帰宅してからや風呂からあがってから、優香の顔を覗きに来る、その程度。そんなときに限って普段は泣いてばかりの優香は必ず寝ている。

 夫は、最愛の我が子を抱っこすらしないのだ。――父親なのに。

 父親のくせして。

 綾乃がここに戻って一ヶ月も経つというのに。実家にいる綾乃の両親や兄夫婦のほうが、よっぽど、優香のことを抱っこしてくれた。この事実を直視するたび、綾乃の胸の奥は切りつけられたように痛む。

 その痛みは鋭く。いままでの優しい丈一郎のイメージを切り刻んでいく。あまりにも酷薄で。あまりにも冷徹――。こんなひとだなんて知らなかった。失望感のほうが綾乃のなかでは強い。