お姫様は専属総長に溺愛されてみたい。

「こんなとこにいちゃダメだろ」


低く、夜に溶ける声だった。

月明かりに照らされた校舎裏。
黒いバイクが並び、エンジンの余熱がまだ空気を震わせている。

その中心に立つ人影。


黒い服の背中には銀糸で刺繍された二文字――夜月(よづき)

 
私は、思わず息を呑んだ。

 

「……あなたが、夜月の総長……?」

 

彼はゆっくりと煙草を踏み消し、私を見下ろす。

鋭い目。
整いすぎた横顔。
乱れた黒髪が月を隠す。

「質問してんのは俺だ」 

一歩、近づかれる。

逃げなきゃいけないのに、足が動かない。

「理事長の孫が、夜に校舎裏かよ」


どうして知ってるの。

どうして、この人は。

 ―莉木(りぎ)流海(るうな)

それが私の名前。

名門・紫苑女学院 理事長の孫。
決められた未来を歩くはずだった、お嬢様。

三日前までは。