恋を知った塩崎さんがなんか甘い。 〜アイドルだと思っていた推しは、感情ゼロのAIでした〜

「え……嘘、雨?」



実家の店を出てしばらくした時、頬に何か冷たいものが触れた気がした。

最悪だ。

傘を取りに行っている間に大雨になりそうな雰囲気。

予報外れの雨に打たれながら、私は走る。

走り続けていると、

ふと思い出す。



(宮瀬くんは、もういない)



別にこの世から消えたわけじゃない。

でも、

画面の中から姿を消した。

大切なものを失ったとき、こんな気持ちになるんだ。

今日が雨でよかった。

この涙も隠し通せる。

このまま雨が止まなかったらいいのに。

薬を無くした私に価値はない。

横断歩道の前、立ち止まる。

モヤがかかった赤信号。

なんだか今の私を見ているみたい。

失敗を恐れて止まってばかりで

一歩も動き出せていない。

傘なんていらない。

もう何にもいらない。

私は笑顔を貫き通すだけ。

笑顔を貫くだけ。

笑顔に追われるだけ。



『お前そんなことで泣くのかよ』

『つまんねえ奴』



息するのもギリギリで、苦しい夜。

雨の音だけが自分を現実に導いてくれていた。



「はっ、はっは、っっ、……!!」



過去のことが蘇り、過呼吸を起こす。


突然、雨の音にフィルターがかかったかのように、音が遠くなる。



「風邪、引きますよ」



傘をさしてくれた人がいた。

その人は別に身長が高いわけでもない、ごく普通の人。

そう思っていた。

彼の顔を見るまでは。



「どうかしましたか?」



透き通るような白い肌、染められたピンク髪、頬のほくろ、どことなく愛嬌のある顔立ち……

ちょっと違う気もするけれど

傘をさしてくれたその人は、宮瀬朔太朗のそっくりさんでした。